疑惑のグロス

周りから、くすくすと笑う声が漏れ聞こえる。


な……なによ……。

笑うことないじゃない!


さっきまでの颯爽と歩いていた姿を思い出した私は、膝頭丸出しで床に座り込んでいる今の姿があまりに情けなく、思わず泣きそうになる。

下着が見えないよう、スカートの裾を引っ張ることだけが精一杯の抵抗。


「大丈夫?ほら、つかまって」


皆がピエロを笑うかのようなまなざしで見ていた中、一人温かく手をさしのべてくれた人がいた。


その手は、細く長い指で……骨張ったシルエットが男を感じさせる。


「すみません……」


蚊の鳴くような声とはまさにこれ。

やっとの思いで出てきたわたしの言葉に、その人は優しいまなざしを向けた。

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