疑惑のグロス

一度だけ、手渡しで書類を持って行く機会があった時なんか、他の人にその仕事を取られてたまるもんかと必死だった。


「じゃあ、小松原さんにお願いしようかな」


……あまりに私の顔が必死だったらしい。

同期で配属された田上さんじゃなく、私に依頼してくれた先輩の顔が、少し失笑していたような風に見えたのは……たぶん、気のせいよね。


そんな機会でもなければ、彼の顔を見ることはできなかった。

ストーカーみたいなこと、したくなかったから会社帰りに待ち伏せなんてもってのほか。

ひたすら地味に思い続ける日々。

でも、彼の名前を書類で見つけて小さく喜ぶ、まるで小学生のような恋も、気付けばもう4年。


そろそろ、アプローチしないと先に進まないのはわかっていた。

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