恋するイフリート
序章

ここは日本から遠く離れたアラブの国々が隣り合うサハラ砂漠…



昼間は50度を超え、夜は0度まで下がり、熱風は砂嵐を呼ぶ…

過酷に、過酷を重ねたそんな世界…。


このような過酷な世界に、人はおろか、生命が息づいているのかですら疑問ではあるが、

この厳しい環境下であるにもかかわらず、確かに命はひっそりと育まれている。



この過酷な世界最大の砂漠が、他に何か誇るものがあるとすれば、

地下に眠るであろう豊富な資源や遺跡と…


夜間訪れる、「星屑の宴会」だ…。



日が沈むと…


この荒れ果てた荒涼な大地は、闇に飲み込まれ巨大なスクリーンとなる…。

自然の造る巨大スクリーンに、やがて姿を表すのは幾億光年前の瞬き…


その瞬きは、この過酷な大地を生き抜く全ての者へと降り注ぎ

つかの間の癒しをもたらす…





そして…


この物語は、そのような場所から始まるのだ…




昔々…



この荒涼な砂漠のど真ん中に、どんな願いも叶える魔人のお城がありましたとさ。



今からお話するのは、その砂漠のお城で起きた、昔々のあるワンシーン…。









「『イフリート』…。あなたは少しイタズラが過ぎたようですね…??」



真っ白いガラベーヤ(民族衣装)に身を包んだ

美しい青年が、氷の微笑を浮かべている…。


「ちょ…ちょっと待て!『カリフっ』!!

 俺はちゃんと人々の願いを叶えただろうっ!?」



「…願いを叶えた…??」



『カリフ』と呼ばれた青年は

その鋭い眼光でイフリートを射抜いた。




「砂漠の民が、雨を願えば、村ごと流されるような大洪水を起こしたり、

その謝礼に、村の若い女性を全て攫ってしまう事の何が、

願いを叶えたと言うんでしょうね??」


カリフはニッコリと微笑んで見せたが…

それは、あきらかに『切れ笑い』だ…。

美しい端正な顔に青筋が3本程立っている。


「それに、何です??『イフリート』ともあろう者が、

この、酒池肉林のようなダラけた生活はっ!?」


決め台詞と共に、ビシッ!!と、真っ直ぐにイフリートを指差した。


「こ…これはっ…!!」


慌てて言い訳をしようとしたイフリートだが、



「うふ〜ん♡イフリートさまぁ〜ん♡」





…………言葉を飲み込まざるを得なかった。



申し訳程度に肌を隠した美しい娘達がイフリートの肩や膝にセクシーにしなだれかかる…。



「こ…これは…そのっ…!」



もはや、何を取り繕っても、

言い訳にしかならない。



そして、容赦ないカリフの攻撃は始まるのだ。



「イフリートっ!!よくお聞きなさいっ!!

アッラーは私達人と、人と対をなすあなた方『ジン』をお造りになりました。

私達は互いに影響しあって、同じ世界に生きる者…。

魔人の力を悪用すれば、あなたはいずれジャハンナム(地獄)に落ちる事になるんですよっ!?

それに、あなたは『ジン』の中でもイフリートの階級……!!

あぁ、嘆かわしい!!そもそも『ジン』のあるべき姿とは………(etc……)…」





「……………………」









ーーーーーーーー30分後ーーーーーーー





「解りましたかっ!?イフリートっ!!」



「はいっ??」







美女達との野球拳真っ最中に、ふいに名を呼ばれ、

忘れかけていた現実を思い出すイフリート。


イフリートの為にと渾身の説教を施し、

改心を願うカリフ。


双方の視線が30分後に改めて絡む……。




「…………………」



「…『また』、聞いてなかったのですね…??」


「…い…いや、だって、お前、いっつも同じ事言ってんじゃん??」



イフリートのこの発言に、

いつも優しく彼を諭す

カリフの姿はもう何処にもなかった。





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