チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
もう一度腕時計を見た瞬間、かたんと入り口が開いた。
ドクンと心臓が跳ね、思わず視線を上げる。
そこには、いつもと変わらない佐倉さんがいた。
高そうなスーツを簡単に着こなして、力強い目線であたしをとらえる。
あたしはそれだけでもう、何も考えられなくなる。
「待った?」
「う、ううん!今来たとこ」
半分以上なくなってるホットチョコレートの前では、あたしの嘘は簡単にばれてしまう。
「まだ何か飲む?」
「あ、あたしは平気」
「じゃ、ちょっと待ってて」
そう言うと佐倉さんは列に並び、コーヒーを持ち帰りで頼んだ。
立ったままそれを見ていたあたしに「行こうか」と呟いて、入り口に向かう。
こくんと頷き、急いで荷物をまとめてその背中に続いた。
『待った?』
『行こうか』
…ヤバい、ホントにめっちゃ、デートみたいだ。
デートだって言ってもいいのかな。
言ってもバチは当たんないかな。
緩む頬を必死に抑えて、あたしは小走りで佐倉さんの後ろをついて行った。