わたしから、プロポーズ
初恋の温もり


「いいのか?伊藤課長も終わったみたいだったけど」

すぐに路地を曲がると、それまで速めていた歩調を緩めた。
アルコールが入っているせいで、それほどの距離でもないのに息が切れてしまう。

「誘ったのはヒロくんじゃない。今さらそんな事を聞かないでよ•••」

口を尖らせた私に、ヒロくんは優しく微笑んだ。

「あえて聞いたんだよ。本当にいいのかなって。婚約者の彼、放っておいていいのか?」

「それって、瞬爾と一緒にいた女の人を意識して言ってる?」

私のその言葉を聞いたヒロくんは、苦笑いをしたのだった。

「やっぱり訳ありか。そうかとは思ったけど」

「もしかして、カマかけた!?」

声を大きくした私に、ヒロくんは笑った。
「カマなんてかけてないよ。莉緒が鋭いだけだろ?俺の考えてる事が分かるんだから」

そう答えられて、私も思わず笑ってしまった。

「何でだろ?ヒロくんの事なら分かるのにな」

「婚約者の彼の事は.分からないってやつか」

ヒロくんに言われて、苦笑いをしながら頷く。

「うん。分からない•••。さっきの女の人ね、美咲さんっていって、瞬爾の元カノなんだって」

それを言い終わった時、涙が溢れてきた。
いたたまれなくて逃げたのは私だ。
だけど、本当に逃げてきて良かったのか。
瞬爾は美咲さんと、まだ一緒なのか•••。

それを考えると涙が出てくる。

「莉緒、俺ならいつでも支えになる。だから、泣きたければ泣けよ」

ヒロくんはそう言うと、私を抱きしめた。
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