わたしから、プロポーズ


瞬爾が見つけてくれた店は、過去に取引があったところらしく、電話で事情を話すと快く協力してくれたという。

「複数店舗を経営している店でさ。探して見つけてくれたんだよ。莉緒が見つけられなかった時の保険のつもりでお願いしてたんだ」

ハンドルを握りながら説明をする瞬爾に、小さくなるしかない。

「結局、私じゃ見つけられなかった•••」

「それは、仕方ない事だよ。だいたい、莉緒は何で一人で解決する事に拘るんだ?結果として解決出来ればいいと思うけどな」

そう言われると、反省する部分もある。
結局、私が意地を張ったせいで、瞬爾に心配をさせて手伝わせる形になったのだから。
だけど、今回は私が全面的に悪い。
仕事に私情を挟んだ結果がこれだ。
だから、一人でやる事に拘っていたのだった。

「それに、担当を外せばいいだなんて、何で言ったんだよ。莉緒らしくない気がするけどな」

「それは•••。結局、私は中途半端って事。仕事も•••」

『恋も』と言おうとして、口をつむいだ。
今は、そんな話をしている場合ではない。
すると、瞬爾が横目で私に目を向けたのだった。

「俺は、投げやりな言い方は好きじゃないな。莉緒が頑張ってるから、こうやって応援しているんだ」

「•••ごめんなさい」

瞬爾が不快をあらわにするのは当然だ。
何をやっているんだろう、私は。
自己嫌悪と、美咲さんへの嫉妬心も見え隠れしながら車で進むこと約1時間、ようやく目的地へ着いたのだった。

「こんばんは。伊藤です。遅い時間にすいません」

店の閉店時間はとっくに過ぎていたけれど、店内はまだ明かりがついている。
想像以上に落ち着いた雰囲気で、いかにも音楽に詳しい客向けの店だ。

「いや、いいよ。伊藤くんの頼みなら、聞かないわけにはいかないから」

そう言ってにこやかに出迎えてくれた人は、口髭を生やした40代くらいの男の人だった。
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