イジワル同期の恋の手ほどき
一方、宇佐原は入社七年目にして、現在所属している営業一課で、四つ目の部署になる。
通常の異動サイクルは四、五年だから、相当なハイペース。
一年での異動が二年続いた時は、「落ち着いて仕事させてくれ」と嘆いてもいたけれど、持ち前の適応能力でどんな部署に配属されてもそつなく業務をこなしている。
宇佐原は部長候補と噂されるほど、将来有望な若手のひとりだ。
そんな宇佐原とのやりとりで忘れられないエピソードがある。
それは半年くらい前にまとめた会議録を宇佐原がなおしてくれたときのことだ。
【マイルドに修正しておきました】
そんなメールがやってきて、思わず噴き出した。
その日の帰り道、いつものように立ち寄った居酒屋で私はつい宇佐原にこぼしていた。
『会議録の修正ありがとう。宇佐原ってほんとにすごいよ』
『発言どおり記録したおまえの会議録が間違ってたわけじゃないぞ。だけど、あのまま本社の奴が読んだら、ちょっと誤解しかねないと思ってな』
『うん、そうだよね。私の配慮が足りなくて、説明不足なところもあったし……。私ね、宇佐原と同期だってこと、他の人に言わないようにしてるの』
『なんでだ?』
『だって、あまりに働きが違いすぎて、本当に同期なのかって思われそうなんだもの』
『バカだなぁ、周りのやつにどう思われようが関係ないだろ。カタログの校正やらせたら社内一と言われる、おまえの仕事ぶりを俺は信頼しているし、おまえと同期になれたことを誇りに思ってる。会社中に広めたいくらいだ』
宇佐原はそう言って、私の頭をなでたのだった。
* * *
大人になってから、誰かに頭をなでられたことなんてなかったから、本当に驚いた。それが、世の女子が、恋人にされると泣いて喜ぶ、〝頭ポンポン〟だと知った時の衝撃は、今も覚えている。
宇佐原と新人研修で出会ってから、お互いに決まった相手がいたことはなく、だからこそ気兼ねなく、仲のよい友達として付き合えるのかもしれない。
〝仕事の同志〟というよりは、〝飲み仲間〟というほうが、私たちの関係に合っている。