イジワル同期の恋の手ほどき

タクシーの中も、宇佐原は無言だった。
いつもと様子の違う宇佐原をチラチラと盗み見る。

「すみません。五分ほど待ってもらえますか?」

家の近くに着いたとき、タクシーの運転手にそう言って、宇佐原が一緒に降りる。

「ひとりで大丈夫だよ」

断ってみたけれど、宇佐原は部屋の前まで送ると言って聞かない。
いつもはマンションの下で別れるのに、今日はデートの練習だから、恋人の部屋まで送り届けると言い張るので、素直に従うことにした。

「こういうときは、お茶でもどうぞって、言えばいい?」

「本当にそうしてほしい相手ならな。でも、その気もない奴に、そんなことは絶対に言うな」

「宇佐原は? 酔いざましに、コーヒー入れようか?」

「俺の話、聞いてたのか? タクシー待たせてなかったら、間違いなく上がり込んでたな」

「えっ?」

「ダメだ、そんな簡単に男を家に上げたら。襲われるぞ」

返す言葉が見つからず、黙って宇佐原を見つめると、「おやすみ」と言ってそそくさと帰っていった。



宇佐原が帰った後、今日一日を振り返っていた。
いつもと様子が違っていた宇佐原は、ずっとなにか言いたそうだった。

車の中でも、夕日を見ている時も、家の前に着いてからも。
口紅やスカートの話や、ソフトクリーム……。

考えれば、おかしなことばかり言っていた。

それに、宇佐原の好きな人って、いったい誰なの?

そんなことを考えていたら、珍しく眠れない夜を過ごすことになった。
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