赤い流れ星
「その人がどんな人間かなんてこと……数日でわかるはずなんてない。
妹の家にころがりこんで、妹に働かせておいて家にいるような奴なんて、普通に考えればどうしようもない奴だ。
……だけど、俺は、不思議と君のことは嫌いじゃない。
君と接する度にそんな風に思うようになった。
第一印象は最悪だったけどな……」

和彦さんは、そう言ってまた笑った。



「そりゃあそうですよね。」

「なぁ…君はなぜ働かないんだ?
あいつが、そうしてくれって言ったのか?」

「和彦さん…俺、この世界の人間じゃないから戸籍がないんですよ。」

和彦さんは俺の返事を聞いて、はっとしたような表情をして黙りこんでしまった。



「……残念ながら、俺にはそのことがまだ受け入れられない。
だけど……君のことを見ていると、女を働かせて平気でいるようなタイプにも思えない。
第一、金が目的なら、あんなバイトよりももっと収入になる仕事をさせるはずだしな。
正直に答えて欲しいんだが……なにか事情があるんじゃないのか?
身元を知られたくないなんらかの事情が……」

俺は、和彦さんの目を見てきっぱりと首を振った。




「それは違います。
俺には、知られてまずい事情なんて…いや……
そもそも、俺には俺を産んだ母親も過去もまだなにもないんです。
俺にあるのは27歳の俺だけ。」

「……あくまでも、君は自分のことを美幸の作り出したキャラクターだって言うんだな。」

「ええ…それが真実ですから、そうとしか言えないんです。」

「なるほど……」

和彦さんは、それ以上何も言わず、目の前のカレーライスを口に運んだ。
俺も同じようにして、気まずいはずの沈黙は、食事の作業でなんとなく誤魔化された。
やっぱり、物事が核心に迫ると、ぎくしゃくとした雰囲気になるのは否めない。
それでもきっと頭から否定されないだけでも、ずっとマシなことなんだと、俺は自分に言い聞かせた。



「そろそろ電車が来る頃だな。
出ようか。」

「そうですね。」



俺達は喫茶店を出て駅に向かった。
移動先で、今度こそ、何か有力な情報がみつかれば良いのだが……
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