赤い流れ星




次の日、俺達は仲居さんからあの夫婦のことを聞き込んだ。
ほんの一瞬しか見ていないというのに、和彦さんはあの夫婦の顔の特徴や服装についても記憶しており、やっぱり和彦さんはすごい人だと感心してしまった。
仲居さんの話からも、男性と一緒に旅館に泊まったのは、どう考えても亡くなった奥さんに間違いないと思われた。



「お二人は本当に仲が良さそうに見えましたが……
奥様の方は体調がすぐれないご様子で、旦那様もそのせいか思い詰めたような顔をされていました。」

「そうですか……
いろいろとどうもありがとうございました。」



その後、俺達は二人が最後に目撃された場所へ向かった。
そこは、車で三十分弱の場所で、大きな波が寄せては返す高い崖の上だった。
高所恐怖症の人なら、下をのぞきこんだだけで足がすくんでしまうだろう。



「彼らはここから……」

そう言ったっきり、和彦さんは黙りこんでしまった。



「あの画像はここで撮ったもんでしょうか?」

「いや、違う。
あれは、旅館の傍に小さな湖があっただろう?
多分、あそこだと思う。」



和彦さんはそう断言するからには、きっと少しだけ写っていた背景で判断してのことだろう。
二人はどんな想いであの画像を撮ったんだろう…?
奥さんが本当に生き返ったという証のためか、それとも自分達のことを忘れないで欲しいというメッセージなのか……
規則的な波の音を聞きながら、俺はふとそんなことを考えていた。



「一人の人間の死は、思い掛けないほど大きな波紋を広げるもんだ。
命っていうのは、自分だけのものじゃないってことだな。
……しかし、きっと今彼らは幸せなんだと思う。
間違っていたとしても…彼らはきっと納得して逝ったんだろう……」

二人で白い波飛沫をみつめていると、波が引く時に和彦さんのそんな言葉がぽつりと聞こえた。




「間違っていても納得してなくても……きっと、二人一緒だったから、二人は幸せだったんだと思いますよ。」

「……そうだな。
……シュウ、そろそろ、帰るか……
美幸が待ってる。」

そう言うと、和彦さんは俺の背中を軽く叩いた。
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