赤い流れ星




和彦さんの大きな笑い声が、茶の間に響いた。



「びっくりさせるなよ…ったく。」

「驚いたのはこっちの方ですよ。
俺、和彦さんに殺されるかと思いましたよ。
さっきの顔…本当に怖かった……」

「ばーか。
殺すわけないだろ。
ま、二、三発は殴ったかもしれないけどな。」

俺は昨夜のことを和彦さんに話した。
話さなくても良かったのかもしれないけれど、話の流れというのか…ついなんとなく……



「あいつは晩熟だからな……
今時、珍しい程、純情だから大切にしてやってくれよ。」

「わかってますよ。
だからこそ今まで何もしなかったんですから。」

「……手のかかる妹で悪いな。」

「いえ……」

一度、襲いかけたことはやはり言い出しにくくて言わなかった。
自分でもずるい気はしたけど…やっぱり、今は黙っておこう。



「……それで、なにかわかりましたか?」

「あぁ…とりあえず、神咲愁斗という犯罪者と失踪者がいないことと、現在27歳の神咲愁斗という人物が日本にいないことはわかった。
ただし、偽名を使っていたらみつからないのは当然なんだけどな。」

「じゃあ、俺が偽名を使っていると?」

「いや、それは可能性の話だ。
でも、もしそうだとしたら、本名がわからない限り、みつけられるはずがない。」

「でも、俺には神咲愁斗以外には名前はありません。」

「……そう言うと思ってたよ。
犯罪者と失踪者については出来る限り調べたんだが、シュウの体格や年齢に近い人物はみつからなかった。
確証が得られたわけではないが…気持ち的には俺は君がこの世界の人間じゃないことを信じている。」

「本当ですか!?」

和彦さんは黙って頷いた。



「もちろん、100%ではないぞ。
でも、犯罪者でも失踪者でもない人間がこんな所に来る理由は極めて少ないからな。
それに…そういう人間はやはり普通とは違うからすぐにわかる。
俺は、いくつかの国を旅してちょっとあぶない人間に出会ったことも何度かあるが、奴らは目を見るだけであぶない奴だってすぐにわかる。
ましてや一緒に生活していれば、なおさらわかる。
シュウにはそういう危険なものは感じられないからな。
……くれぐれも言っておくが、100%信じたわけじゃないんだからな。
今まで俺が調べたもの、そして感じたものを総合すると、どちらかといえば信じる方に傾くってだけの話だ。」

和彦さんはどこか照れてるように俯いて、そう言った。



「それで十分ですよ。
ありがとう、和彦さん。」

「俺は礼を言われるような事はしていない。」

そう言って和彦さんはそっぽを向いた。
< 124 / 171 >

この作品をシェア

pagetop