赤い流れ星




「そうだったんですか……
お疲れ様でした。
それにしても、あんなに俺のことを嫌ってたお母さんが急に戻られるなんて、なんだか信じられない気がします。」

「俺もなんだ。
美幸が働いてるのを見て、母さんはなにかを感じてたようだし、多分、店でも美幸のことを良く言われたんだと思う。
だから、機嫌が良かったのは事実だけど、いくらなんでもあんなにすぐに帰るのはおかしい。
荷物だってここに置いたままだからな。
でも、さっき見てみたら、置いてあった荷物は下着や着替えが少しあるだけだから、絶対に必要ってわけでもない。
俺もあの豹変ぶりは怪しいと思ってしばらく改札で待ってたんだけど、やっぱり母さんは出てはこなかった。
それに、俺に美幸のことを頼むって言ったんだ。
おまえと美幸のことを許したわけじゃないだろうけど、少し様子をみようと思ったんじゃないか。
俺に二人のことを見張れってことなのかもしれないな。」

「見張るだなんて……和彦さんに見張られてたんじゃ、俺、悪いこと出来ないな。」

シュウはそう言って、笑った。
俺も、釣られて一緒に笑った。
母さんが帰ったことで、心の重石が取れたというのか、なんだか気持ちが晴れたせいかもしれない。
だが、まだ気が抜けるわけじゃない。
母さんは戻ったら父さんにこのことを話すだろうし、今後もまだごたごたが続くことは間違いない。
ただ、母さんは、シュウのことを多少は認めてくれたのかもしれない。
今までバイトをしたこともなく、人と関わること自体を嫌ってひきこもりに近い生活をしていた美幸が、あんなに生き生きと働いていることには、シュウの影響も大きいと考えてくれたのかもしれない。
とにかく、なんとかして二人を説得し、今しばらくはこの生活を続けられるようにしてやることが俺の勤めだと思う。
近いうちに俺はなんらかの仕事を始め、シュウをそこで雇うことにしようと考えている。
そうやって、シュウが収入を得られるようになることが、二人の仲を認めてもらう第一歩になると思うから。



やがて、シュウが昼ご飯の準備を始めた頃、不意に俺の携帯が鳴った。
画面に出たのは美幸の番号だった。



こんな時間に美幸からシュウにではなく俺に電話なんて…
まさか、なにかあったのか…!?



俺の鼓動は急に速さを増した。
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