赤い流れ星
「シュウ…今夜は朝までゆっくり美幸と過ごしたらどうだ?」

「えっ!?」

和彦さんの思い掛けない言葉に、俺は思わず物思いから覚めた。



「あ……別にその、おかしな意味で言ってるんじゃないぞ。
話したいこともいろいろあるだろうし……
それに……もしそういうことになったらなったで、良いじゃないか……」

「和彦さん…何言ってるんですか…
全ては十年後でしょう?」

「おまえは本当に見掛けによらず真面目だなぁ…」

和彦さんはそう言って失笑した。



「あ、それから、これ……」

和彦さんは俺の目の前に封筒を差し出した。



「当座の金だ。
少ないけど、持っててくれ。
美幸がごねるかもしれないけど、とにかく、数日中にはおまえのことを諦めさせて家に連れて帰って来る。
それまでの間、なにか必要なことがあるかもしれないから。」

「……あ、ありがとうございます。」

俺は素直にそれを受け取った。
本当ならそんなものはいらないと言いたい所だったが、ネイサンの家からどこに行くにしろ金は必要だ。
どこに行くかはまだ具体的には決めてはいないけど、あの家ともひかりの実家ともそしてこのあたりとも関わりのないどこか遠くへ行くつもりだ。
それから先のことは、今、考えることもないだろう。



(どうにかなる…
きっと、どうにかなるさ……)



「和彦さん…ひかりのこと……
どうぞ、よろしくお願いします。」

「あぁ…任せておけ。
……じゃあ……とにかくおまえは何も心配するな。
大丈夫だ。
十年なんて意外と早いもんだ。」

その言葉からは和彦さんが少し無理してることが感じられた。
でも、本気で俺のことを考えていてくれてることもとてもよくわかった。



「……和彦さん……
本当に、いろいろどうもありがとうございました……」

「そんなの良いって。」

照れ臭そうな声で、和彦さんは深々と頭を下げる俺の腕を叩いた。
俺はそのまま後ろを向いて和彦さんの部屋を後にした。
あふれそうになった涙を見られたくなかったから。



(本当にありがとう……)





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