星空の四重奏【完】



「───では、皆さん集まりましたね。これからのことを説明します」




ロイはまたあの壇上に立っていた。適応者は魔物によって造られた、と説明したあのとき。

不思議とその光景にはデジャ・ヴが見え、自然とこの場にいる者たちに緊張が走る。




「もうすでにご存知かもしれませんが、僕は指揮をとることになったロイと言います。僕のことを良く思っていない方もいるかと思いますが、僕もこのようなことを好き好んでしているわけではないので我慢してください」




その言葉でサッと顔色を変えた人を数人見かけ、ああやっぱりな、とロイは妙に納得した。

ルカンたちが、過剰に反応した仮病者が数人けしかけて来たと先日言っていた。恐らくほぼ同一人物たちなのだろう。


一呼吸置いてから口を開く。




「皆さんは、今夜起こることについてご存知だと思います。これから、魔物との決戦が始まります。

今まで脅(おびや)かされてきた天敵。デカル教の元凶。適応者の発端。

全てに共通しているものは、神類たち。『我ら』は僕たちの味方ですが、『奴等』は敵であり、今回のターゲットです。

皆さんはとにかく、『奴等』を駆逐してください。できるだけ、多く。『奴等』は容赦なく真っ向から攻撃してきます。その勢いに躊躇っていてはこちらの命が危うい……ですから、皆さんの力量にかかっているのです。

この世界の、運命が……」




ロイはだんだんと瞳を光らせていった。


そうだ、未来がかかっている。確実に近づいている悲劇の始まり。その悲劇を最小限に抑え込められなければ、人間に勝ち目はない。

勝たなければならない。被害を少なく食い止めなければならない。生還しなければならない。


生還して、大切な人との未来を勝ち取ってほしい。



(僕にだって、やり残したことはあるのだから)



家族との本当の和解は、まだできていない。




「これからの作戦は、特にありません。ですが、部隊を3つに別けて行動してもらいます。3つ部隊が協力し合い、魔物をこの本部のある山脈に追い込み一網打尽にする。

これは作戦と言えるのかもしれませんが、あまり宛にはしないでください。できれば、の話です。ですが、この作戦は実行させてもらいたいと思っています。

皆さんの面倒を見てくださるのは、この方です。僕たちにはやることがあるので皆さんと行動を共にできませんのでご了承ください。

では、どうぞ」




ロイは壇上から降り、代わりに上がったのはレンの恩人、マスターだった。彼の姿に歓喜がわく。

一見厳ついその風貌だが、ニカッと白い歯を見せた。





「おうおう、しけた面してんなーおい。俺のこと知らねぇやつはいねーよな?いるとしたら、まだまだ青二才のやつぐらいか?

こんな老いぼれに責任を押し付けられていい迷惑だが、しょうがねぇ、自己紹介すっか?」




ヒューヒューとどこからか指笛が聞こえる。そして大きな拍手。その尋常じゃないわき方に裏にいるシーナとギルシードは顔を見合わせた。




「な、なんだ?マスターってそんなに有名人なのか?」

「さあ、知りませんねぇ。そもそも本名も知りません」




シーナはぶんぶんと首を横に振った。逆に教えてほしいくらいだ。




「俺の名前はマスター。本名?そんなの必要ねぇな。そもそも忘れた。いつからブランチに入ってたのかも忘れるぐらいガキの頃からやってる。

俺は、最年少で5つ星ランクに昇格した偉業の持ち主だ。同期の現本部長を差し置いて5つ星だぜ?どんだけ周りから言われたか。まあ、俺は行動派だったから本部には留まらず自ら支所を立ち上げたがな。

まあ、そんなこんなで俺がおまえたちに指示を出す。黙って言うこと聞けよぉ!」




おおーー!!と歓声がわき上がる。いまいちそのテンションについて行けないシーナたち。

そこにロイが戻って来た。




「マスターはブランチでは有名らしいですよ」

「なんでだ?」

「唯一、本部長が頭の上がらない人物だからです。あの堅物にため口なのは彼だけですよ」

「堅物って……言っていいのかよそれ」

「マスターが仰ってたので平気ですよ。取り敢えず、マスターは英雄みたいな存在なんです。自己紹介でも、最年少で5つ星ランクって言ってましたよね?それほど実力のある方なんです」

「へぇー……お金に目がないオッサンがねぇ」





あのお金にデレデレとしていた容姿からは想像できない肩書き。

人は見かけによらないなーとギルシードは改めて思った。




「僕たちはレンさんを奪還するのが課せられた使命です。だから戦闘は彼らに任せます」

「あいつひとりでぶらぶらしてるとも思えねぇしな。絶対配下のやつらを従えてるはずだぜ」

「そいつらの相手は僕たちがして、シーナさんに任せるんです。シーナさんには指一本触れさせません」

「クーッ!カッコいいこと抜かしやがって。俺も負けてられねぇぜ」

「そうですね!」




瞳に炎を宿した野郎2人。彼らの横ではシーナが百面相をしていた。




(レンさんを助けないと……でも、どうやって?本当にキスしないといけないの?いやいや無理無理無理。まだしたことないんだし、する勇気もないし……でも声だけでレンさんに届くのかな?身体も張らないとダメだよね……そうするとそうなるし……)




だが、ぶっつけ本番、成るように成るしかないのである。何が起こるのかは誰にもわからない。






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