星空の四重奏【完】




「んで、おまえら2人の処遇はー……」




シーナがめでたく無職になり、レンと彼女が義兄妹になった日のその夜、野郎改めギルシード、青年改めロイに判決が下されようとしていた。

審判はマスター。補佐官は奥さん。

2人の視線が突き刺さっているように見えるのは気のせいだろうか。




「お咎めなし「よっしゃー!」

「……浮かれるんじゃねー。まだ続きがある」

「は?」




マスターの言葉でガタッと椅子から立ち上がり声を上げたギルシード。しかし、マスターの目はまだ厳しい。




「おまえさんたちは適応者だ。そんな使える人材をのこのこと使い物にならなくさせるのは、もったいない気がしてな。そこで、だ。

おまえさんたちは、ブランチに入ってもらう」

「……へ?ブランチ?」

「……そうなると思ってました。適応者は未だにその数は少ないですからね。そして、ブランチは喉から手が出る程欲しがっている。罪人だろうが、ブランチに入ればパーになるんですよね」

「さすがロイ。わかってるな。イヤでも入ってもらうからな。数年牢に入れられるよりはマシだろう」

「……マシっすけど。でも、盗賊の俺なんかが入れるんすか?」

「盗賊という肩書きよりも、適応者という肩書きの方が重要だから問題はねーよ。報酬も盗賊やってるよりかは安定するだろうさ」

「……それで、僕たちはどこに行けば良いんですか?勝手にブランチを名乗れませんよね」

「そうだ。手続きをするために、本部のあるフロンターレに行ってもらう」

「フロ……随分と遠いっすね。このバサラから5日ってとこっすよね」

「まあな。本部に着いたらコレ見せるんだぞ。いいか、絶対に無くすなよ」




マスターが念を押しながら2人に渡したのは紙切れ1枚。しかし、それはお金では買えない代物だった。



「これは、紹介状ですね」

「ブランチってーのは、いわば口コミだ。信頼された者しか入れねぇ。レンを紹介したのは俺だ。レンがブランチに入れたのは俺のそのサインのおかげだ。直筆のサインじゃねーと上まで通らないようになっている。偽造は無理だ」

「随分と厳重っすね」

「当たり前だ。組織なんだからな。強く清くなければ信頼は勝ち得ないもんだ」





長い説明が続く中、船を漕ぎたいけれど漕げない者が1名。それはシーナだ。首がまだ痛いため、頭を不覚にもガクッとさせようものなら、たちまち再起不能になるだろう。

しかし、眠い。先程夕食と入浴を済ませたのも原因だろうが、精神的な疲れが溜まっているはずだ。

特に、自分の気持ちに気づいてからは……




「シーナ、風邪ひくぞ。ちゃんとしたところで寝ろ」

「……え?あ、なんですか?もう1回言ってください」

「仕方ないな……運ぶか」

「ひゃっ!危ないじゃないですか!危うく首がガクッとなるところでしたよ」

「……すまない。次は気をつける」




2人は階段を昇って、2階へと消えて行った。

実は、宿からはもうお金を引き払ったのだ。今は居酒屋の2階の客室で寝起きをしている。

客室がちょうど4つあったので、泊まらせてもらうことにしたのだ。


ギルシードは野宿で、ロイは宿を借りていたがこちらの方が快適なために、荷物を広げてしまっていた。

マスターたちは最初呆れたような物言いをしていたが、今となってはどうでも良くなったらしい。




「あいつら、上手くいったようだな」

「でもねぇ、レンちゃんの鈍感さはどうにかならないかしら。シーナちゃんがホントに可哀想」

「本人たち次第じゃないですか?レンさんがどう変わっていくか見物です」

「じれじれしてますもんね。見てるこっちが恥ずかしいくらいっすよ」

「……まあさておき、だ。絶対に無くすなよ!命よりも大事だと思え」

「ちょっと!死んだら元も子もないわよ!」

「ははは……まあ、そりゃそうなんだがな。おまえさんたちも休んだらどうだ。明日にはもう出てってもらうぞ。居候が4人も居ると窮屈だ」

「4人ですか……?あの2人は?」

「道案内として同行させる。レンは本部に数年前まで滞在していたからな。一緒に行けば心強いだろう。さあ、散った散った!俺は寝るぞ」

「歯をちゃんと磨いてからよ!時々忘れるんだから……虫歯になるわよ」

「へいへい」




夫婦2人も2階に消えて行った。残された2人も電気を消してから上がる。




「どうなっちまうのかねー俺らは」

「さあ。神のみぞ知る、ってやつです。神、で思い出しましたが、髪を切ったらどうですか?長すぎて人相が悪く見えます」

「大きなお世話だ!まあ、邪魔だとは思うが」

「それなら、僕が切ってあげますよ。自分では切れないでしょうし。何よりタダなんですから。美味しい話でしょう?」

「……癪だが、お言葉に甘えるぜ」

「では、先客が終わってから洗面所へ行きましょう」

「……早くしてくんねぇかな」





ギルシードの驚きの変貌を目の当たりにするのは明日の朝になる。

そして、出発の時が近づいていた。


これから、旅が始まろうとしている。

明かされていない真相をどこかで拾ってしまうかもしれないが、受け入れるしかないだろう。

或いは、秘密にしていたことがバラされてしまうかもしれない。


しかし、それでも続く。長く永く、4人の関係は続く。

……多少変化はあるだろうが。







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