星空の四重奏【完】



「お、やっと来たか。遅かったな」

「時計が狂う場所に行っていたからな」

「そんな場所があるんですか?」

「まあな……俺のいた施設に行って来たんだ。そこは磁場が発生していて時計が狂う」

「施設?そんなのどこにあったんだ?俺はこの建物の中を隈無く探索したんだぜ?」

「僕もぐるりと回って来ましたが、見ませんでしたよ?」

「……それは地下に「うるさいわねさっきから!入るの入らないの?ずっと待ってるんだけど!」



レンが言いかけているときにバコーンと診療所のドアが開き、女性がひとり現れた。

髪は燃えるような赤い色をしており、これまた赤いふちの眼鏡の奥では、青い瞳が爛々と輝いている。


彼女の首にかかっているネームプレートには、
ルカン、と書かれている。彼女が早口にレンたちを捲し立てたのだ。




「……ルカンさんの方がうるさいと思い「口出し無用!さっさと入れ!そして脱げ!」

「脱げ?!」

「……あ、あらヤダ。あたしったら……女の子は別の部屋があるから大丈夫だからね?」




ルカンは優しくシーナにはそう言った。

ルカンの男女に対する差が激しくついていけないレン以外の3人は、ぽかーんとするばかりだ。


レンはため息を吐いた後、大人しく診療所に入っていく。

戸惑っていたシーナたちもおっかなびっくり彼に習った。




「はい、レン」

「ああ、すまないな」

「ホントよ!まったく……こんなところに動物なんて連れ込むのはあんたぐらいよ!」

「だからすまな「さっさと入れて!」

「……」




ルカンはドアをまたもやバコーンと閉めると、どこからか穴の空いた小さな箱を持って来てレンに乱暴に手渡した。

話の内容からして、ティーナをこの中に入れるらしい。


レンはごそごそとポケットからぐったりとしたティーナを取り出し、箱に入れた。




「……ティーナ、元気ありませんでしたね」

「寒すぎて仮死状態なんですかね?ここまで来るときかなり寒かったですから」

「いや……たまにこうなるんだ。死んだように眠るときがある。原因はさっぱりわからんが」

「あたしは動物なんて専門外だから検査しろとか言わないでちょうだいよ」

「言いませんけど」

「じゃあシーナちゃん。あなたはこっちの部屋よ……あんたらはそこね」




シーナに対しては優しい口調でも、男3人には声色をぶっきらぼうにしてそれぞれの部屋を指差した。

……が、シーナの場合は肩に手を添えて誘導したが。



レンたちが入った部屋には身長、座高、体重を計る道具があった。そして、ひょろひょろっとした童顔の男がひとり。




「おまえからあの人に何とか言えないのか?」

「まず第一声がそれなのか!?そしてなぜ僕にそれを言うんだ!」

「……彼氏に言うのは当然のことだろうが」

「僕にそんな立場がないと知っていながら、無理難題を押し付けやがって……僕は悲しいぜレンくーん……」

「……ウザい」

「ぐはあ!……なん……だと?」

「……ちっ」




レンの一言にオーバーリアクションをする男。

確かにウザいが、男にしては可愛らしい顔立ちをしているため許せてしまう……かもしれない。





「……誰だコイツ」

「え、僕?僕はグレンだよ。ルカンさんの助手をしてるんだー」

「そして、俺の同期だ。施設で共に育った」

「そうだよー。僕とレンは大の仲良しこよしなのさ!」

「……俺はそこまで親しくしているつもりはないが」

「ぐはあ!……なん……だと?」

「……二度目はいい。さっさと始めないか?怒られるぞ」

「……わかったよ。相変わらず冷めてるなー」





グレンは緑の瞳を恨めしそうに細め、頬をぷうっと膨らませた。普通は女子のする行動だが彼なら許せる……かもしれない。




「んじゃ、そこに脱いだ服入れてよー。体重を少しでも軽くしたかったらチキらない方が良いよ」




各自おもむろに上着やら装飾品やらを籠の中に入れる。

グレンが横から何か話しかけてくるがどうでも良いことなため敢えて無視をした。

すると、ここでもふて腐れてしまい頬をぷうっと膨らませた。



「僕の話聞いてないでしょ、ねえ!」

「……聞いてるっつーの。耳には入ってくんだが……あれだ、すぐに抜けて行っちまうんだ」

「それを聞いてないって言うんだよー!」

「……っさいわねー!心音聞こえないじゃないのよ!」




それぞれが身長を計り終わった。

続いてギルシードの座高を計ろうとしているとき、恐ろしい剣幕でルカンが先程よりも強くバコーン!とドアをいきなり開けた。


ちょうどグレンは板をギルシードの頭の上に乗せようと少しずつ降ろしていたときで、驚いたのか板を思いっきり下げてしまった。

それが見事にギルシードの脳天を直撃する。

……雲行きがだんだん怪しくなってきた。




「ってーなこの野郎!俺を気絶させる気か!ああ!?」

「ご、ごめんよ……ビックリしちゃって……」

「瘤(こぶ)ができたらどーすんだよ、このバカ!」

「それはそれで良いんじゃないですか?」

「ああ!?どういう意味だロイ!」

「そのままの意味です。瘤の分身長が伸びるんですから、気にしている身長を高くできるんですよ?」

「アホか!身長はもう計り終わってんだぞ?座高だけ上げたって胴長になるだけじゃねえかよ!!つーか余計なこと言うんじゃねえ!」

「……あ」

「あ、じゃね「全員、死刑にしてあげましょうか……?」




メラメラと炎が燃えるように見えたのは……ルカンの赤い髪の毛だった。心なしか逆立って見える。

一向に静かにならないことに堪忍袋の緒が切れたのか、いつもとはうって変わってにこりと笑っている。

しかし、彼女の手におさまっているのは手術用のメスと注射器が……


彼女は怒りが頂点を貫くと微笑む質らしい。

そんな彼女を見てグレンは青ざめている。


ルカンがにこにこと微笑を浮かべながらツカ……と靴音を鳴らせて一歩歩み寄ると、隣の部屋からか細いながらも鶴の一声があがった。



「あの……ルカンさん?部屋のドアを閉めてください……恥ずかしいんですけど」

「……きゃー!ごめんなさい!薄着だったわね!今のあなたを男なんかに見られたら堪ったもんじゃないわ!」




と、ルカンは今度はこちらの部屋を閉めずに脱兎のごとくすばやく隣に戻った。

隣の部屋のドアは静かに閉められ、辺りはしーん……と静まりかえっている。




「……ふうー。助かったぜ。マジで殺されるかと思った」

「同感です。ああいう質の人はいったんああなると誰も止められませんからね」

「……さ、さあ。みなさん。早くちゃっちゃっと終わらせましょう……」

「……さっきまでの威勢はどうしたんだグレン。それにまずおまえ自身をどうにかしろ」

「へ?」

「……腰、抜かしてどーすんだ彼氏さんよ」




……本当にこの2人は付き合って……いや、付き合えているのだろうか。




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