《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「先程のお返しですよ」

 密やかにそう呟くハリの口元は僅かに緩んでいた。

「まったく! ハリのやつ、今日はやけに饒舌(じょうぜつ)だな」

 ラインアーサは通路の窓を開けると、勢い良く入ってくる少し冷たい風を思い切り吸い込んだ。

 ───初恋。
 そう思ったことなど一度もなかったが、意識してみると案外そうなのかもしれないとも思った。
 線路を走る列車(トラン)の規則的な音と不規則な揺れ。ラインアーサは飛んでゆく景色を眺めがら、心を落ち着かせた。そして、通路の最奥にある〝特別室(スィート)〟の扉を軽く叩く。扉がほんの少し開き、中から強靭(きょうじん)な体つきをした護衛が現れる。ラインアーサは小声でその男に声をかけた。

「ご苦労様。少し中に入れてもらってもいい?」

「ええ。勿論です。どうぞ、お入りください」

 男は一礼し、ラインアーサを中へと招き入れた。


 ───

 ──────
< 23 / 529 >

この作品をシェア

pagetop