《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「この場所が好きなんです。夢の中に出てくる場所と似ていて……」

「……夢?」

 夢という言葉にラインアーサの鼓動がいっそう跳ねた。まるであの夢の続きを見ている様な錯覚に陥りそうだ。

「でも、王宮の敷地内という事はわかってます。勝手に入り込んですみません……もうここへは来ませんのでどうか…っ」

 女性はラインアーサの手からするりと抜け出すとぺこりと頭を下げ、少し泣きそうな顔をした。その顔にどうしようもなく息が苦しくなる。

「……眺める程度なら、別に来ても構わない」

「え、でも…」

「厳密に言うと、そこの小川のこちら側からが王宮の敷地だ。小川までならば問題無い……」

 咄嗟に嘘を付いた。あからさまな嘘だったが、先程の泣きそうな顔を見たらつい自然と口走っていた。

「本当に、いいの?」

「たまになら」

「ありがとうございます! ……警備さん、最初は怖い人だと思ったけどいい人なのね!」

 そう言って、女性は花が(ほころ)ぶような───。
 とても愛らしい笑顔を浮かべる。

「…っ!」

 心の中で渦巻き始めた感情にラインアーサは戸惑っていた。
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