《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~

夢の人


 ほの薄い千草色(ちぐさいろ)の髪が風でさらさらと躍る。虹色の瞳は淡く煌めきを増す。
 まだ硬い(つぼみ)の様な雰囲気を持つスズランだがそれでも麗しくも可憐な姿に何度見蕩れただろう。今後更に美しくなっていくだろう姿を側でずっと見守っていきたい。

「───俺もスズランの事、知りたい……けどその前に俺の昔話をしてもいい?」

 十一年前。ラインアーサが初めてスズランと出会ったこの森。
 髪の色や身なりから判断し、異国から来たのだろうというのは分かっていた。自身もまだ幼かったが、あの日の出来事は鮮明に思い出せる。

「ライアの昔の…、お話?」

「……少し恥ずかしいけど俺の初恋…。とも呼べない様な、でも大切な思い出なんだ」

「……ライアの初恋! ……うん、聞きたい! でもちょっとだけ、焼きもち妬いちゃうかもしれないけど…」

「ふふ」

「な、何で笑うの?」

「いや……」

「…?」

 馬鹿にして笑ったのでは無い、つい口元が緩んでしまったのだ。伏せ目がちにし、少し不満げに頬を膨らませているスズラン。
 彼女の手を引いて石橋を渡り、すぐ側の川岸に降りた。眼下に流れる清らかな小川。美しいせせらぎに耳を傾けると心が落ち着く。
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