《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
 馬車行進(ディスフィーレ)での疲れもあるものの、頭の中を支配しているのはやはり例の酒場(バル)での出来事だ。
 自分でも気付いていなかった初恋と言う名の不思議な感情。どう言った采配か、偶然その初恋相手に再会出来たのだが肝心の相手には嫌われてしまった様だ。あの怯えた様な視線を向けられた瞬間、ひどく心がかき乱された。

「ああ、もう! ……なんなんだ」

 ラインアーサは勢い良く起き上がると思い切り(かぶり)を振ってもやもやとする思いを蹴散らす。兎にも角にも〝変態〟と〝ロリコン〟という誤解は何としてでも解きたい。
 セィシェルと言うあの少年はスズランに好意があるのか? それとも兄の様な立場から守っているのだろうか。酒場(バル)で言われたことを思い返すと、段々と腹が立ってくる。記憶を辿れば、十一年前に出会った時既にかなり口生意気だった事が鮮明に思い出された。

「……相変わらず口が悪い…!」

 さらりとした金色の髪と垂れた目元。琥珀色(こはくいろ)の瞳がやけに挑戦的な視線をラインアーサに向けてくる。

「とにかく、変な誤解だけは解いてやる。見てろよあのガキ!」

 珍しく悪態をついたラインアーサは再び横になり瞳を閉じると、強引に夢の世界へとその身を投じた。

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