《完結》アーサ王子の君影草 ~ラインアーサの些かなる悩み事~
「ああ、ちょっと出かけてたんだ。丁度今戻った所だよ」

「なら、もう夕食は済んで(はい)らないかしら? 久しぶりに木の実を使った焼き菓子を作ってみたの」

 焼き菓子はラインアーサの好物である。
 以前はよくイリアーナと母 エテジアーナが手作りをしては食べさせてくれた。いわゆる思い出の味なのだ。その上、丁度良く空腹だ。入らない訳が無い。

「俺、夕食まだなんだ!」

「じゃあたくさん食べてね、作りすぎちゃったの!」

 はにかんで見せたイリアーナに対し、ラインアーサも笑を浮かべた。

「じゃあ全部食べる!」

「うふふ、その顔は幼い頃のままね」

「そうかな?」

 ラインアーサは照れながら首を傾げた。
 そうして好物の焼き菓子を頬張りながらお茶を飲んでいると、不意にイリアーナが話かけてきた。

「お父様もハリ君も……アーサの事を心配してるわ」

「……ん、ごめん」

「良い歳して夜な夜な出歩いているからよ?」

 イリアーナもまた心配そうにラインアーサを見つめる。

「悪かったよ……もう用は済んだし、暫く大人しくしてるさ」

「違うの! それもあるけど、わたしが言いたいのは誰か居ないの? って事よ」
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