伝わらない、伝えられない
瞬間、恋心sideちとせ


「フラれてよ」



悠斗の言葉に思わず固まる。



「葵に対する気持ちは恋じゃないって」


「そんな…」



恋じゃないなんて…


あんなにも熱っぽい視線を送っていた悠斗を思い出す。


そんな訳、そんな訳ないじゃんか!


部屋を出ようと急ぎ足で玄関へと向かう。



「何処にいくんだよ!」


「葵の所」



葵にちゃんと話さないと。


でも悠斗はあたしを掴んで離してくれなくて…


悠斗の葵への切ない想いが頭を過ると、堪えていた涙が溢れてきた。


言い訳をしながら涙を拭っていると、あたしはいきなり悠斗に抱きしめられて…



「ゆ、ゆう、と?」



もう突然の出来事に名前を呼ぶことしか出来ない。


声に反応した悠斗が少しだけあたしと顔を合わせる。そしてそのまま…


一体、何が起こっているの?


悠斗の顔がすぐ傍にある。その目の前にある瞳は瞑られていて…


まさかあたし、キス…されてるの?


予想も出来なかった事に訳がわからないまま、力一杯悠斗の胸を押した。


さっきとは違い、悠斗の顔がはっきりと見える。


あたしに向けられたその顔は、とても真剣なものだった。


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