氷の魔女とチューリップの塔
氷なのでどうしても滑りやすくなってしまう階段を慎重に登り、スリサズは大きな窓の中を覗き込んだ。

それなりに広い…

礼拝堂だった頃の装飾を壁や家具に残す部屋…

その中央に置かれた、棺を立たせたような形のガラスケースの中に…

白い人影が収められていた。

雪のように真っ白な長い髪と、純白のドレス。

祈るように目を閉じてうつむき…

(人形!? それとも…人の遺体…?)

白すぎる肌からは、生者の気配は感じられないが…

「ロゼルー!
さっき確か、チューリップの花言葉は色によって違うって言ってたわよねー!」

「…ああ!」

距離があるのでお互い大声になる。

「白いチューリップのはーっ?」

「…“失恋”!!」

声に気づいたというよりも、単語に反応したように、伝承の姫君が目を開いた。

「!!」

スリサズは思わず息を飲んだ。

大昔の王女が生きて動いて…

それ自体は魔法の力によるものだろうし、伝承から予想はしていたが…

王女の美しさについての語りは、さすがに誇張だと考えていた。

とんでもなかった。

長いまつ毛を持ち上げて大きな瞳でまっすぐに見つめ返す姫君は、同性のスリサズが見ても驚いて足を滑らすほどの美しさを放っていた。

「きゃあっ!?」

集中が乱れたせいで氷の階段の表面が解けて、ますますツルツルと踏み留まれず、そのまましりもちをついて更に滑って…

階段の端から飛び出し、落下する!

「いやあああっ!!」

「……っ!」

恐れたほどの衝撃はなかった。

スリサズの体は、ロゼルの両腕に受け止められていた。

小柄な少女とはいえ人一人。

それなりに体重もあるし加速もついているのだが、ロゼルはたたらを踏んだだけで耐え切る。

「ロゼ…あ…ありが…」

もごもごと口ごもるスリサズを、ロゼルはポイと脇に下ろして塔を睨み、件の氷の階段をずんずんと登り始めた。

「ムッ!」

一瞬、スリサズの頭の中に、今すぐ氷を全部解かしてやろうかなんてことがよぎったが…

(むーっ)

結局、氷を固め直して、滑りにくくしてあげた。

ロゼルは軽く右手を上げて、先ほどのスリサズと同じように唇をもごもごとさせ…

どうやら礼を言ったらしいが、ちゃんとは聞き取れなかった。
< 8 / 17 >

この作品をシェア

pagetop