最大の出来事
「・・・・・・購買で何か買いに行くね」

 踵を返して行こうとしたとき、知らない生徒にぶつかり、謝罪してから前に進もうとすると、別の生徒にぶつかった。
 後ろで見ていた潤一が一桜の腕を取り、その場から急いで離れた。

「はい。これ」
「ありがとう・・・・・・」

 潤一は購買で買ったパンを渡すと、それを受け取った一桜が黙って食べ始める。
 一桜の隣に座って、潤一も袋を開けて、自分のパンを一口齧る。

「これ、いくらだった?」
「気にしなくていいぜ」

 パンを奢ってくれたことに感謝して、半分くらい食べてから、そっと口を開いた。

「鬱陶しい?」
「何が?」
「私よ」

 今まで育実はずっと一桜の隣にいたのに、高校生になってしばらくしてから璃穏のそばにいるようになった。
 もう自分が世話をするのではない。そう思うと、少し怖くなった。

「他の人達と仲良くなっているのを見ていたら、ちょっと・・・・・・」
「いくみんが今来さんにくっついているとばかり思っていたら、実はそうでもないんだね」

 潤一にとって、このことは意外なことだった。
 それから昼休みが終わる五分前まで、潤一は一桜の話を聞き続けた。

「・・・・・・遅いね」
「本当だね。潤一も今来さんも」
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