君がいないと落ち着かない

目をつぶって


前にこの後ろ姿を見たのはいつだったろう。
細いくせに肩幅の広いあの背中には、忍は見るたびに抱きつきたくなった。
「…なんで?」
振り返って驚いた表情の千尋。
「望みどうり、呼んでやった」
「……忍」
千尋が一歩ずつ忍に近付いて、伸びた髪に触ってきた。
「髪、伸びたね」
「うん」
彼が忍の横髪を手櫛で梳かす。
「もう1回呼んでよ」
切れ長の目が柔らかく細まって、今度は目の下まで伸びた前髪を撫でてきた。
「ちー」
忍は合わせていた目を下に向けて呟く。
無意識に口角が上がって、微笑んでいることが分かっているのは、前髪を撫でる千尋だけだ。
「何でいるの?」
「松浦の家で年越し」
話ながら、千尋が忍の前髪を七三に分ける。
右目のまつげに髪が掛かった感触がある。
「七三?」


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