隣の席の西城くん


私ですが。
冬です。寒いです。
私の住んでいる山に囲まれたこの地域は、今日の朝から雪が降り始めました。

降り始めた初日から、雨の混じったみぞれです。


「うわー降ってきたねー!さむーい」
「ねー」


テンション高めのその友人に、どうでも良さそうに返事を返した。
頼んでもいないのに、私の後ろに回り込み首にマフラーを巻こうと目を爛々と輝かせている。そのマフラーをチラリと横目に見ると、ただのマフラーではなく、その子と同じオレンジを主としたチェックのマフラー。
お揃いとか好きではない私は、その手首を掴んで阻止。


「あんた今日傘持ってきてないとか言ってなかった?」
「ねー」
「ねぇ」
「ねー」
「ねぇってば、聞いてる?」
「ねー」
「心も寒くなってきたなぁ・・・」


窓の外を眺めながら手首を掴んでマフラーを拒否する私と、今度は机を挟んで前から仕掛けてくる由希。
しばらく一進一退の攻防が続き、疲れたのか諦めた彼女は、私の前の席の椅子を引いて座った。そこは、最近ベルトに腹が乗り始めて危機を感じている野村くんの席なのだけれど、この友人は気せず勝手に座っている。

そう言えば、傘・・・折りたたみも忘れたなぁ。
降水確率50%。お天気のお姉さんが、降るか降らないか五分五分のそれを示したとき、この地域では必ず雨が降る。そして今は冬なので、雪が降る。
かと思ったら、みぞれだったけれども。

「お兄ちゃん呼べばいいや」
「あれ?あんたのお兄さん、どっか遠く行ってなかったっけ?」


そう言われて、兄の発言を思い出す。
「東京でオンリーやるらしいから行ってくるわ!お前も一緒に行くか?楽しいぞ!俺のお古のカメラ貸してや・・・あ、コスプレするか!?やっちゃうか!!」
思い出しただけでも騒がしい。激しさが増してきたところまで思い出して、早々に思い出すことを止めた。


「そうだった。東京にコスプレしにいってるんだった・・・」
「コスプレじゃなくて、それを撮影する・・・えぇと、カメコでしょ?」
「そうカメ」
「違うカメコ」
「どっちでもいいよもう」
「めんどくさがらないでよぉ」

泣き真似している相手に、昼休み終わるよと一声かけてから、背中をグイグイ押せば、泣き真似をしたまま自分の席に戻っていった。あの友人は、どうもめんどくさい傾向にある。小学生から何かと一緒になるため、我ながら制し方は分かっていると思う。
次は、現代文の授業。昼休み終わりの国語系や歴史系はどうも眠くなるのは、世の学生全体に通ずるものがあると思う。
・・・もう一度、窓の外を見る。暗くてどんよりしたグレーの空に、白が点々と降ってきている。みぞれが本格的に雪になったらしい。雪なら、みぞれよりは傘がいらないという点で嬉しい。まぁ降らないに越したことはないけれど。

若干冷たい指先に温かい息を吹きかけながら、教室の扉を開けて入ってきた先生を見て、今日も天頂部が寒そうだ、とぼんやり思った。
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