さかのぼりクリスマス
◇First X’mas
First.


「ナナごめん、長引いた」


 ドサッと、スポーツバックを床に落として。

 息を切らして、高遠くんは、わたしのいる教室にやってきた。

 よっぽど急いで上がってきてくれたのか、髪は乱れて、頬は赤い。薄暗いなかでも、わかるくらい。


「もう映画、間に合わねーよな…」
「んー、でもいいよ。また今度、ね」
「…ごめん、ナナ」
「やー。待たされたおかげで、冬休みの宿題がこーんなに進みましたー」
「や、ほんと、わるい」
「あはは、冗談だよ」


 高校の冬休み。

 始まったばかりの、12月25日。わたしたち以外、だれもいない教室。

 時刻は午後6時。それでも冬だから、まわりの景色はすっかり明かりを失い、色をなくしている。


「…てか、寒かったろ」


 高遠くんが歩いてきて、わたしの向かいの席に腰かける。

 だれも座っていなかったそこは、きっとキンキンに冷えていて、見ているだけでおしりがヒヤッとした。

 高遠くんは男の子だから、平気なんだろうか。


「ほんとごめんな」
「大丈夫だよ。女子は膝掛け常備してるから」
「あー…もう、クリスマスにわざわざ練習入れてきた上に、長引かせるとかウチの顧問……や、おれも絶対間に合うからって待たせてたし……あー…」
「あはは、もういいって」

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