Street Ball
蠱惑
夕方から立ちこめてきた雲は、狂ったような太陽光を遮断してくれた。


頬を撫でる夜風は涼しげだが、何処か寂しげにも感じる。


歩くペースを少し遅め、取り出したスピリットに火を付けた。


足を進める度に、街灯の光に照らされた煙が後ろへ流れていく。


未だ九時には数分早い。


早く着いているのも、待ちきれなかったのだと思われて嫌だった。


街灯に群がる羽虫が、大きな蛾に弾き飛ばされ、目線の高さまで落ちてくる。


俺の他に歩いているのは、中国系の店で安く遊ぼうと考えている酔客が数グループ。


安い酒を呑み過ぎて、既に足が覚束無い者まで居た。


視線を上げ、目的のビル横に有る看板を眺める。


アルファベットからカタカナ、果ては中国語で書かれたネオン看板が、縦一列に並んでいた。


その中の一つに、太い木の幹に見立てた看板に、[エデン]と刻まれている。
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