Street Ball
鍵を開けて家に入ると、お袋のサンダルが玄関に有った。


その脇にジョーダンを並べ、何か飲もうと冷蔵庫を開いた。


手前の麦茶を取ろうとした時、ラップに包まれた皿が視界に入った。


勝手に高校を辞めてから、お袋と交わした会話を思い出そうとしたが、思い出せる記憶の数が少なすぎる。


それでも、お袋は変わる事なく、出勤前に夕飯を作ってくれていた。


碧のマンションに入り浸るようになり、家に帰ってくる事も少なくなっていたというのに…。


窮屈だと思って飛び出し、彷徨って見つけた居場所は偽りだった。


変わらず暖かく迎えてくれた場所は、窮屈だと思っていた場所。


瞳の縁から零れた涙が、轍を作りながら頬を伝っていく。


お袋が口を開けば、五月蠅いとしか感じていなかった。


仕事で疲れ、もう眠っているお袋の部屋の襖をじっと見つめる。


そして、小声で有り難うと告げて、半日遅れの夕飯を摂った。
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