闇の雨
もう一つの闇
快が入院してから一ヶ月が経過した。
瀬奈は毎日仕事帰りに彼を見舞い、紗織や耕助、爽もそれぞれのスケジュールに合わせながら、できる限り病院に顔を出していた。
「もう帰るのか?」
面会時間が終わりに近付き、瀬奈がいつものように鞄を手に立ち上がると、快は少し寂しそうにそう言って瀬奈の胸を痛めさせた。
快の瀬奈への執着は、相変わらず続いていた。
「今日、意識失ったんだ」
ロビーへ向かいながら突然、快が言うので、瀬奈は思わず足を止めた。
「意識失ったの?」
「うん、午前中、先生と話してる最中に急に意識が遠のいて……」
「それで?」歩き出しながら瀬奈が尋ねると、快は軽く伸びをし、先を続けた。
「短時間だったし、先生の目の前でだったから、すくに異変に気付いた先生に起こされた……」
「そう」
ゆっくり歩いたが病棟入口に到着する。瀬奈は後ろ髪をひかれる思いで快を見た。
「じゃ、明日の朝、なるべく早く迎えに来るね」
「……判った」
名残惜しそうな快を残し、瀬奈は自動ドアをくぐって外に出た。
――意識……か。
社会人になっても瀬奈のファッションは変わらない。特別変える雌雄もない。スニーカーをゆっくり進ながら、瀬奈は先ほどの快の言葉を思い返し、ため息をついた。
意識を失うというのは、症状的にはどうなのだろうか。悪くなっているのだろうか?
主治医の石崎とはあの脱走事件以来、顔を合わせてはいないが、外泊中、テレビを点けていられるようにはなっている。少しずつ良くなってるのであればいいのだが……。
「城ヶ崎」
突然名前を呼ばれ、瀬奈はピクリと大きく体を震わせた。
――誰!?
辺りを見回してハッとする。慣れている道で周囲も明るいが人気はない。声の主を探して神経を張り巡らせると、前方から隼人が姿を現した。
「よう!」
「山科くん」
相手が隼人と知り、安堵する。久々の再会。隼人はナチュラルブラウンだった髪を少し明るめにし、左耳にはピアスをつけ、高校時代とは少し雰囲気が変わっていた。
「今日からそこの服屋でバイト始めたんだ。あ、髪……切ったんだな」
腰近くまであったロングヘアをバッサリセミロングにし、パーマもあて、大きくイメチェンした瀬奈を見て、隼人はそう言った。