闇の雨


 精神科から出された睡眠薬を飲んでも熟睡とまではいかず、夜中、ベッドで目を開け、天井とにらめっこする日々が続いている。家族や瀬奈との会話がたまらなくおっくうで、ずっと横になっていたいし、最近は人込みに出ると必ず気分が悪くなる為、必要最低限な外出しかできなくなっていた。

 通学は徒歩だが、教室にいると気分が悪くなり、授業に集中できない。しかし、高校は卒業したかった。

 意識がある間はずっと続く、全身を支配する倦怠感と焦燥感。授業に集中できないので、成績も下がり始めていた。

 頑張らなければ、頑張れるはずだ。ぐるぐる回る感情。常にワンセットな二つの感情が、快の気持ちを引き裂き、少しずつ彼を追い詰めていく。

 ――これでも"何でもない"のかよ……!

 快は拳を握ると唇を噛み締め、布団を被った。



 携帯電話のカレンダーを見ながら、瀬奈は溜め息をついた。

 ――今日もフられちゃった。

 快が精神科を受診してから二週間。それまで毎日のように会っていた二人だったが、あれ以来、瀬奈は快の部屋には一度しか行っていなかった。

『一人になりたいんだ……』

 快の言葉を思い返し、噛み締めるように口に含んで飲み込む。最近は登校してもすぐに早退してしまうので、快との会話はすっかり減り、メールをしても返事はなく、このまま関係が終わるのではないかという不安と体調の心配とで、瀬奈の心もすっかり元気をなくしてしまっていた。

 ――どうしようかな。

 今日は日曜なのに、たった一人で過ごさなくてはならない。そんな寂しさの中、彼女の目頭は熱くなり、感情の滴が涙となって涙腺から溢れ出した。

 快は一体、どうしてしまったのだろう? 一体何があったのだろうか? 泣きながらそんな事を考えてみたが判らない。ただ、そうしていても苦しいという事だけが判然としていて、それに耐え切れず、瀬奈は閉じていた携帯電話を取り出し、菖蒲に誘いのメールを打った。とにかく、一人でいたくなかった。一人でい事が怖かった。苦しみに押しつぶされるような気がして、忙しなくメールを打ちながら、必死に涙を拭い、気分を変えようと努めた。

【カラオケでも行こう♪ 準備出来たらまた連絡する】

 メールを送信すると、菖蒲からはすぐにそう返事が来た。

【了解】

 瀬奈はそう打ち返すと、ようやく笑顔になった。
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