闇の雨
鞄を手に学校を飛び出した瀬奈は、再び快の携帯電話に電話し、流れてきたそのメッセージを耳にして、不安を強めた。
快の家は市内なので、突然、携帯電話の電波が届かなくなるという事は事故でもない限りまずない。長距離選手なので走る事も苦じゃない。瀬奈は携帯電話を鞄に放ると、神童家を目指した。
快の綺麗な指が、キッチンの包丁入れへと伸び、数本ある包丁の中から一本引き抜く。
――終わりにしよう。
怪しく煌めく包丁の刃をじっと見つめ、快はゴクリと唾を飲み込んだ。
――こんな俺に生きる資格はない。
包丁を握る手をゆっくり持ち上げ、首筋へと持ってゆく。
――死にたい。
今まで恐怖を感じていた"死"という言葉が、今は甘く、とても魅惑的な響きとして、闇の中から快を手招きしている。
"さぁ、こっちへおいで――"
光が、まるで死神が側でささやいているような錯覚すら感じ始める。
――逝くよ。そっちへ。
そして、包丁の刃が静かに快の首に当てられた。