君と歩いていく道
自分はピアニストなのだと、プロなのだというプライドは、今は何の役にも立たない。


「お姉ちゃん、ごめんね。泣かないで。」

「ごめんな。手、痛いんだろ?」

「痛いの?大丈夫?」


子供は包帯を巻かれた手を心配そうに見つめて、泣きだした真崎の背中をさすっていた。

「ごめんね、ちゃんと弾けるように、練習しなきゃね。」

「うん、俺達、待ってるからさ!」

素直に笑ってくれた子供達の心が、純粋に嬉しくて笑った。

自分もこんな風に、ピアノを弾く人間に憧れていた子供時代があったのだ。
思い出せば重なって、何度も先生にせがんだ記憶が鮮やかに蘇る。
楽団に入る前までは、鏑木のもとでこんな風にレッスンを繰り返していたのに、いつの間に忘れていたのだろう。


「何をしてるんですか?入ってはいけませんと言ったでしょう?」

「ごめんなさい先生。」

「じゃあねーちゃん、またな!約束だぞ!」


大月に追い出されて出て行く子供たちに、泣き笑いで手を振って約束の代りにした。

「大丈夫ですか?」

うまく声が出せずに、真崎は頷く。
子供達のお陰で大事なものを思い出したような気がして、真崎はもう一度ピアノに向きなおった。

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