君と歩いていく道
どちらかといえば中性的な真崎の顔は、笑うと驚くほど幼くなる。

「先輩ももう帰ってます。」

未だに紺野のことを先輩と呼び続けてしまう伊吹だったが、今更その癖は抜けないようで、誰も咎めたりはしない。

「そっか。光博の方が早いかもね。あ、今日は買い出しもしなきゃいけなかったんだ。」

思い出して慌て始めた真崎が面白くて、伊吹は思わず笑ってしまう。

外見はとてもしっかりしていて、黙っていれば彼女はとてもクールな大人の女性なのに、中身も表情もとても子供っぽい。
それでも大人としてしっかりはしているし、分別もある。素でボケている時があるので、そこが彼女を幼く見せているのかもしれない。

年下の彼に笑われて恥ずかしくなった真崎は、照れたように真っ赤になってしまった。

「玲さん、電話。」

「うん?ホントだ。」

「じゃあ、また。」

伊吹はうしろ向きに手を振って、その場で別れた。
背負ったテニスバッグが、重たげに揺れる。
着信は紺野からで、どうやら家にいないのを心配して掛けたらしい。
やはり、紺野の方が帰るのが早かったようだ。どうも本屋に立ち寄ると長居してしまうのは、悪い癖だろう。

「買い物してから帰るね。」

『俺も付き合おう。』

二人で買い物をするのは久しぶりだ。
とてもうれしいその申し出を受け入れて、いつも利用するスーパーの前で待ち合わせることになった。

待ち合わせとは言っても、きっと紺野の方が早いだろう。ここからの距離よりも、家からの方が近いからだ。
少しでも早く会いたくて、真崎は走り出す。

その背を見つめる一人の男がいたことを、彼女は気づかなかった。



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