君と歩いていく道
そのうち思い出すのは、気分のよくない記憶ばかり。
子供の頃から押しの強い母親に押さえつけられ、友達でさえ離れていった事や、嫌々続けたピアノのレッスンの事。

それから、あの日の事。

状況が今と似ているのかもしれない。
だんだんと鮮明に思い出されていく、手首に刃を当てたあの日。

朝から気分の悪い日だった。

天気はどんよりと曇っていて、そのせいで余計に。
体も重だるく、誰にも会いたくなかった。
テレビをつける気にもならず、ましてやピアノの鍵盤には触れたくもない。
雑誌も本も開けず、何かを食べるのさえ億劫で。

視界の隅で携帯電話のライトが点滅して、着信があったこと知らせる。
しばらくはそのまま放置していたのだが、何故だかとても腹が立ってきたので、立ち上がって電源を切った。

これで外部からの接触は無いだろう。

安心してソファーに横たわり、眠くはないのに目を閉じた。

通りを通る車の音や、忙しく動き回る鳥の声。
窓を閉めていても聞こえるそれらを聞いていると、無償に悲しくなって胸が苦しかった。

恋人と幼馴染みは、疲れているのだから休めと言う。

休んでいるのに、心が落ち着かないときはどうしたらいいのだろう。
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