普通に輝くOL
花司家を離れて
彰登と郁香は最寄駅から2つ先のイタリアレストランに入った。


「車で出かける方がよかった?」


「いえ、どっちでも私は・・・。」


「車だと、ワインが飲めないからね。
この時期は外をゆっくり歩きながら帰る方がロマンチックかなぁなんてね。」


「彰登さんはロマンチストですね。」


「そうかなぁ。今回の審査、僕もプレゼンやったわりに長月に持っていかれたクチだぞ。」


「彰登さんはイメージが壮大なんですよ。
山だったり、森だったり、宇宙だったり・・・大きいものが好きでしょう?

そういうのってやっぱり力強くて、男性的じゃないですか。」


「そうかなぁ。バックが大きいだけで、世界観は妖精とかおとぎ話に出て来る動物やきれいな女性とかメルヘンだと思うんだけど。」


「ああ、そうでしたね。
私は彰登さんの作品ではそのバックの部分に引き込まれてしまうから、小さいものを無視しちゃってたかも。」



「はぁ・・・ウソだろ!郁香、仮にも広報のデザイナー窓口の君がそれじゃ・・・。
いや、やめておくよ。仕事の話は会社でまたってことにする。

だけど不思議だな、君は美大の絵画中心で勉強していてデザインはぜんぜん素人だったのに1年であっというまに窓口として堂々とやってるな。」


「私も驚いているんです。最初は私みたいなド素人がどうなっちゃうんだろうって思ってました。
でも、部長が・・・そういう人だからいいって。

絵やデザインは見るのは小さい頃から好きだったんです。
でも、里親だったし、貧しいってほどじゃなかったですけど、お金持ちでもなかったので無理はいえませんでしたしね。」



「苦労して楢司の入社試験を突破したんだな。
でさ・・・今さらきくけど、君の面接官って誰だった?
転勤とかで、もう覚えてない?」


「いえ・・・私の面接は・・・前の人事部長と直にいだったんです。」


「ぬぁ~~~にぃ~~~!マジ?
もしかして・・・もしかしてさ、直にいのそのときの肩書きって何て言ってたか覚えてるか?」


「えっと、それが・・・総務部長代理って・・・。」


「ええっ!!!それって、思いっきりヤラセじゃないのか。
確かその頃って、君はおじいさんのことも知らされてなかったんだよね。」


「ええ。1年間はうちの会社の社長が誰なのかもよくわかっていませんでした。」


「ん~~~なんとなく読めてきたな。
直にいはその頃から君のことを楢崎郁香だと知っていて、面接したんだ。」



「どうして外部の彰登さんがそう思うんですか?」


「君の家に僕の兄弟たちが住むようになったのが、1年とちょっと前の話だからだよ。
じいさんが生きていて、うろついている家に男が普通、いっしょに住みたいとは思わないって。」


「確かに・・・。」


「僕は仕事の上で最初からデザインの道で独立を考えていたから、1人暮らしをしたけど、直にいは優登と清登に引っ越しを提案していた。

表向きはみんなで住んでいた家を売らないと本社がやばい・・・とかなんとかだったけど、よく考えれば本社の支援を君のおじいさんがしないわけはないんだ!
自分の会社なんだからね。

やってくれたな・・・兄貴のヤツ。
君を家に住まわせるつもりだったんだよ。
自分の家でもないくせにね・・・。」



「まぁ!でも・・・うふふ。」


「勝手に人生のシナリオを書かれてて怒らないのかい?」



「怒る?まぁ、引っ越しは確かに慌ただしくて、もうちょっと前のアパートの思い出とか浸りたかった部分もあるけど、直にいがそこまで一生懸命書いてくれたシナリオなら、うれしいわ。」


「うれしいだって?
不法侵入してた連中が、家主を操ったんだよ!」


「操られてはいないと思うけど・・・。
私は私の意思で邸に引っ越してきたんだし、いっぺんにお兄ちゃんお姉ちゃんと弟ができてうれしくて。

夜更けに台所まで行っても、直にいが紅茶をすすめてくれたり、清登くんがお菓子をくれたりして、夜がぜんぜんさびしくないしね。
直にいには感謝してるのよ。」


「なっ!!!深夜に台所でそんな・・・。
あ、決めた。今夜から邸に引っ越す!」


「おぉぉぉ!彰登さんも、興味もってくれたの?
にぎやかになって、藤子さんも喜ぶわ。」


「そ、そうか・・・喜んでくれればいいんだ。あはは・・・はは。」



2人は食事を終えると、タクシーで邸までもどった。


「さ、彰登さん、ダイニングでパーティーしましょう。」


「う、うん・・・。でもこの時間に入って泊まるなんて言ったら兄貴が何ていうか・・・。」


「こわいんですか?大丈夫ですよ。直にいもお茶で歓迎してくれますって。」
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