妄想クリスマス

「…話が、あるんだ」





首元を擽る彼の吐息がくすぐったい。

身を捩り彼と顔を合わせようとすると。

彼は「そのままで聞いて」と。

腕に力を込めた。





つきあって3年。

お互いの仕事の都合ですれ違いも多いけど。

何となくうまくやってきた。

私自身、それをそんなに意識したことはないけれど。

この流れ、このシチュエーション。

ひょっとして、ひょっとして…。





「…け「3番Aコース2つ入りましたーっ!!」

「6番Bコース上がりました!!」

「次、12番上がるよ!!」





厨房に響くバイトのウエイターの声。

それに返事をするキッチンの声。

交ざり合う声に我に返った。





「チーフ!!忙しいんすからトリップしてないでくださいよ!!」





隣でフライパンを振る後輩がイライラ気味に声を荒げた。





…そうだった。

ここは夜景の綺麗なホテルのスイートルームなんかじゃない。

今現在戦場と化している、私の職場だ。



< 2 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop