Noisy Christmas


翌日。

「咲子さーん」

社食へ向かう私の背中を矢野がいつもの如く呼び止めた。
昨日までの私なら、また矢野がちょろちょろと。なんて思うところだけれど、昨日の今日なだけに、辞めてしまうんじゃないかと懸念していた矢野がいつもの調子を取り戻しているようで、寧ろその変わらぬヘラヘラと軽い様子に安心した。

「なに? てか、名前はやめてっていってるでしょうよ」
「考えておきますって言ったじゃないですか」

ああ言えば、こう言う。

呆れている私に矢野が白い封筒を差し出してきた。

「これ、受け取ってください」

差し出された真っ白な封筒には、表にも裏にも何も書かれておらず、ただ綺麗に糊で封がされていた。

「なに、これ?」
「重要書類です」
「重要書類?」

復唱する私に昨日のような真面目で思い詰めた顔を向けてきた。

ま、まさか。
退職届?

驚いて顔を見返すと矢野が頭を下げる。

「早朝急いで準備しました。受理してください」
「え……。ちょ、ちょっと待ってよ。受理って……」

動揺している私を置いて、矢野はさっさとこの場から姿を消してしまった。

「嘘でしょ……」

私から国澤に渡せってこと?
てか、退職届って書きないさいよ。
どんだけゆとりなのよ。
てか、辞めるの?
本気?
まずいよ。
私のせい?
責任取りなさい。なんて言ったのはまずかった?
国澤になんて言えばいいのよ。
と、とりあえず、保留よ、保留。
私はスーツのポケットに矢野からの封筒を捻じ込んだ。
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