ウェディング・チャイム
 私がついさっきまで使っていたピンクのマウスで画面をスクロールさせて、くまなくチェックしている。

 これでOKをもらえるかどうか、びくびくしながら判定を待っていると。

「ここまではいいよ。でも、もう一枚追加で作んなきゃダメっぽいな。まだ年間行事予定が学校から出ていないから、最低限保護者が学校へ来る行事と始業式・終業式くらいは学年通信で先に伝えておかないと。保護者も予定が立てられなくて困るぞ」

「あ……そうですね。でも私、まだ最新版の年間行事予定はもらっていないんです。甲賀先生、お持ちですか?」

「確か主任会議でもらったのがこのあたりにあったような……」

 そう言うと、甲賀先生は積み上げられたプリントの山の中を探しはじめた。

 下手に手伝おうとすると、雪崩を起こす危険性大、かも……。

 私はただ黙って、甲賀先生のプリント発掘作業を見守るしかなかった。


 黒いアディダスのジャージを着た背中が、私の方に向けられる。

 背が高く筋肉質で、学習発表会ではバック絵の張り替えなど、大道具係として重宝されるタイプ。

 やや伸びかけた髪の毛は軽いくせ毛で、たまに跳ねていたりもする。

 それが、年の割に若く見える顔にぴったりで、年上の男性には失礼だと思いつつ、こっそりその髪の毛を直してあげたくなってしまう。

 三十四歳とは思えない体力の持ち主で、休み時間、いつもグラウンドを全力で駆け回っているその姿は、どう見ても二十代。

 去年の歓迎会で年齢を聞いて驚いたら、甲賀先生は苦笑いしながら『俺、いつまで経っても若造だと思われるんだよな。この業界では不利だよ』と言っていた。

 でも、あれから一年経って、確かに見た目は若くてもこの仕事を十年経験している人であるのがよくわかった。
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