ウェディング・チャイム

「いや、ダメじゃない。俺は授かった命を世の中に送り出すっていう選択をした人達を素直に祝福するよ。ただ、教員は保守的な仕事だからさ。保護者の中には当然批判的に見る人だっている。できれば俺は結婚してから親になりたいっていうだけの話」

「なるほど、参考になります。……まずは結婚、と」

「それより先に、相手はいるのか、藤田ちゃん?」

 にやりと笑って聞かれたところをみると『どうせいないんだろ?』と思われているのがバレバレで、結構悔しい。

「ううう、いいんですよ私は! まだ二十四ですから。それより甲賀先生はどうなんですか?」

 するとまた、急に真顔で語り始めた。

「いますよ。目の前にいる貴女と……」

「二次元の相手は除きます!」

 最後までしゃべらせずにツッコむと、はああ、と大きなため息をつかれた。

 そのため息は当然、相手がいないことを示しているのですね、わかります。

 私もにやりと笑って頷くと、甲賀先生は「手のかかる奴め!」と言いながら、また盛大なため息をついた。


 こうして、担任としての初めての参観日は、学年主任のフォローのおかげで無事に終わった。

 これで安心して連休を楽しめると思っていた私に、甲賀先生は

「甘いな、藤田ちゃん。仕事はまだまだこれからだ!」

 ……と言い放ち、学級経営案の書き方というプリントをぽん、と渡した。

 確かに、授業の準備や学級経営案作りがたっぷり残っていて、ちっとも遊べない。

 これでは、恋の相手なんて作る余裕がないと思い知った担任一か月目の春、私もため息をつきながら仕事に追われたのだった……。


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