ウェディング・チャイム

「どういう意味っすか、僕がサンドバッグって! せめて緩衝材くらいにしておいてくださいよ~」

 私より四つ年上の渋谷先生は、甲賀先生と年が近いこともあって、よく一緒にご飯を食べに行ったりする間柄で、仲がいい。

 そんな二人のやりとりを見ながら笑っていたら、ちょっと気分が晴れてきた。

「そうそう、笑え笑え。深刻な顔をしてため息ばっかりついてたら、幸せが逃げるぞ。時間が解決することもあるし、この仕事はすぐに成果が出ないことも多い。気長にじっくり付き合うつもりで、あせらずいこう」

「はい。とりあえず今日はこのくらいですし、それほど深刻な話でもなかったようなのでよしとします!」

「その調子。まだあと三日間家庭訪問が残ってるんだから、ここで倒れてはいられないぞ」


 みんなで頷きながら、それぞれの抱える悩み事を話し合う。

 年齢もキャリアも違うけれど、学級をまとめる大変さは同じ。

 こうして話を聞いてもらうだけで、心が軽くなる。

 励まし合える同僚がいるだけで、私にとって職員室はオアシスだった。


 家庭訪問週間も今日で最後、という日。

 最終日の最後に訪問するお宅は、賑やか女子三人組の中のひとり、島倉紗絵ちゃんの家。


 紗絵ちゃんの家は共働きで、お母さんは病院の事務職員として勤務している。

 家庭訪問の順番も最後にして欲しいという要望があったので、このスケジュールになった。

 
 マンションの来客用駐車場に車を停めて、一階の角部屋の前で確認。

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