恋したメアリ
一秒にも満たないキスが終わり、
浅川が俺の胸にぎゅっと顔を押し付けてきた。

背の低い彼女の鼻がちょうど俺のみぞおちあたりに当たる。

ややして、浅川の顔が上向いた。


「小諸くん、この先、どんな風に私が変わっても私のこと好きでいてくれる?」


「なにそれ、激太りとか?」


「ちょっと違う」


浅川が泣き顔を苦笑いに変えた。

俺はその頭をぽんぽんと撫でる。
彼氏らしい仕草だと後で思った。


「大丈夫。幸せで激太りしても、結婚しておばさんになっても、しわしわのばあちゃんになっても、
俺、浅川が好きだ」


「ありがとう、小諸くん、ありがとう」


間近にある浅川の顔はくしゃくしゃの泣き笑い。

そんな表情も俺にはとびきり可愛らしく見えた。


「でも、今の私のことも、忘れないでね」



想いを伝え合った翌日から、浅川芽有は中学校を休んだ。


病欠と担任は言っていたが、携帯は電源が切れていて、メールも返ってこなかった。


それが浅川芽有と会った最後になった。



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