ヒトノモノ

ダメだ。隣が気になって仕事がはかどらない。昨夜家に帰ってからも蓮の放った言葉が脳を支配しほとんど寝れずじまいだった。




そのせいで今朝は遅刻ギリギリの出社。それなのに蓮はいつも通りの態度で接してくるから昨日の事を問い詰めることも何故か出来ないでいた。




これは休憩しなきゃやってられない。ガタッと腰を上げたら俺にも買ってきてとの言葉。蓮から離れたくて休憩しようとしてるのにどうしてまた戻って来なきゃいけないのよ。怒りたい衝動を抑え部署を出た。




自販機からコーヒーを取りだし一息つく。眼下にはせわしなく移動する沢山の人々。こんなに人間が溢れてるのにどうして私は蓮じゃなきゃいけないのだろう。




ヒトノモノなのに。




私はその場でボーッと立ち尽くす。と、突如、
名前を呼ばれたので振り向けばそこには後輩の松坂くんがいた。




「どうしたの?」




「あの、春日さん。クリスマスイブ、予定入ってますか」




「あ…えーと、入ってるような入ってないような」




「それなら俺と過ごしてもらえませんか?」





「それは無理。俺が先約だ」




私じゃない声が返事をした。松坂くんの後方に立っていた蓮が答えたのだ。笑顔を張り付けていても目が笑っていない。




その眼差しに耐えかねた松坂くんはすみませんでしたと一言いいそそくさとその場を後にした。可哀想に。






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