恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―


「おまえ、旅でもしてんの?」
「……ううん。してないけど」
「じゃあ、いつもこの大荷物持って歩いてんのか?」

和泉くんが疑問を抱くのも分かる。
旅行カバンをふたつも持って歩いている人なんて、旅行が関係している人くらいだ。

出張っていうには大きすぎる鞄をふたつ持っていて旅行じゃないなんて、どう考えたって不自然だ。

「実は部屋を追い出されちゃって」

なるべく重たくならないように笑って言うと、和泉くんは顔をしかめた。

「家賃滞納とかの関係で?」
「ううん。その……彼氏と住んでたんだけど、少し前に浮気されて……その浮気相手ときちんと付き合って一緒に住みたいから出て行って欲しいって言われて。
元々は私の部屋だったんだけど、気に入ったからおまえが出て行けって言われて、それで」

話しながら、なんて悲惨な話だろうと自分で思う。

我ながらお伽話に出てくるお姫様と並べるレベルだ。
笑顔を意識して話したけど、本来だったら泣きながら話すべき話かもしれない。

チラっと見上げると、和泉くんの顔はますますしかめられていた。

無言の威圧が怖い。



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