恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―


最近の奏一くんはいつも優しいけれど、表情は無表情の事がやっぱり多い。
だから、こんな風にギャップを最大活用した笑顔を向けられてしまえば、私は何一つ言えなく、できなくなってしまう。

一緒に暮らし始めて二ヶ月近く経つんだから、そろそろ慣れてもいいハズなのに、全然慣れないから困る。
奏一くんに甘い言葉を言われるたび、極上の微笑みを向けられるたび、私は初恋真っ最中のように新鮮にときめいてしまうから……困る。

「でも奏一くん、好きだって言ってくれる前から、結構気を持たせるような事言ってたよね。
私、あれ聞くたびにドキドキしてたんだからね」

わざとじゃないにしても、奏一くんにはギャップ効果がひとつ上乗せされるんだからねと抗議すると、最初はわけが分からないって顔をされたけれど。
考えていくうちに思い当る節があったのか、「ああ」と呟いてから答える。

「莉子は特別だとか、本当に彼女になればいいとか、そういう話の事を言ってるのか」
「そうだよ。そういう事、言われるたびに心臓に悪かったし、奏一くんの気持ちが知りたくて仕方なかったんだから」
「だってわざとだから」

さらっとそう告白した奏一くんが続ける。

「莉子が俺の事どう思ってるか知るために、莉子の反応見てたんだ」
「え……っ、計算?!」
「まぁ、計算」
「小悪魔……!」

女の私でもうまく小悪魔になれないのに、クールな奏一くんがそんな簡単に使いこなすなんて!
悔しいんだか羨ましいんだか分からない気持ちになってわなわなしていると、奏一くんが聞く。


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