人知れず、夜泣き。
「木内さん。 今日の棚卸し、何時まで平気?? 終電何時だっけ??」
ショウケースに付いてしまった指紋をふきんで拭いていると、店長がシフト表を持ちながらワタシの近くに寄って来た。
そっか、今日は棚卸しの日だ。
終電は24:05。
でも・・・。
悟のいる家に、帰りたくなかった。
もしかしたら、悟はワタシのいない間にあの彼女をアパートに入れたかも知れない。
ワタシたちのベッドで・・・寝たかもしれない。
だとしたら、いつからあのベッドで・・・。
ワタシは、何も知らずに毎日寝転がっていた。
自分が、滑稽に思えた。
「・・・ワタシ、今日大丈夫です。 最後まで出来ます」
てくてく歩けば2時間でアパートに着く。
極力遅めに帰りたい。
「そっか、悟くんが迎えに来てくれるんだ??」
笑顔で話し掛けて来たのは、同期の百花。
百花は結婚していて、産休前の妊婦さんだ。
優しくていつも親切な百花の事は大好きだけど、幸せ絶頂期の悪意のない言葉は、ヒリヒリ痛む胸に更に針を差し込む様だ。
そんな百花に、何も言わずにただ笑顔を返した。