人知れず、夜泣き。


 「木内さん。 今日の棚卸し、何時まで平気?? 終電何時だっけ??」

 ショウケースに付いてしまった指紋をふきんで拭いていると、店長がシフト表を持ちながらワタシの近くに寄って来た。

 そっか、今日は棚卸しの日だ。

 終電は24:05。

 でも・・・。

 悟のいる家に、帰りたくなかった。

 もしかしたら、悟はワタシのいない間にあの彼女をアパートに入れたかも知れない。

 ワタシたちのベッドで・・・寝たかもしれない。

 だとしたら、いつからあのベッドで・・・。

 ワタシは、何も知らずに毎日寝転がっていた。

 自分が、滑稽に思えた。

 「・・・ワタシ、今日大丈夫です。 最後まで出来ます」

 てくてく歩けば2時間でアパートに着く。

 極力遅めに帰りたい。

 「そっか、悟くんが迎えに来てくれるんだ??」

 笑顔で話し掛けて来たのは、同期の百花。

 百花は結婚していて、産休前の妊婦さんだ。

 優しくていつも親切な百花の事は大好きだけど、幸せ絶頂期の悪意のない言葉は、ヒリヒリ痛む胸に更に針を差し込む様だ。

 そんな百花に、何も言わずにただ笑顔を返した。
< 5 / 161 >

この作品をシェア

pagetop