人知れず、夜泣き。



 木内のアパートからの帰り道、コンビニに寄ると木内の元カレの彼女がいた。

 ・・・佐藤だっけ。

 木内の予想通り、佐藤はこの辺に住んでいるのだろう。

 「・・・あ。 夕方にお会いしましたよね??」

 佐藤がオレに気付き、近づいてきた。

 「どうも。 ・・・ひとりなんだ。 彼氏さんは??」

 店内を見渡す限り、木内の元カレの姿はなかった。

 「橘さんもひとりなんだ。 会社の先輩は??」

 佐藤は、オレの質問には答えず、逆に質問を返してきた。

 『橘さんも』と言うことは、佐藤はデート帰りなのだろう。

 「その、会社の先輩の家からの帰り道」

 「そっか。 橘さんって何歳なんですか??」

 佐藤は、もうオレの質問には答える気がないらしい。 そこまで聞きたい話でもないから、どうでもいいけど。

 「23」

 とりあえず、佐藤の質問に答えると、

 「あ、タメだ。 お友達になりません??」

 佐藤がポケットから携帯を取り出した。

 佐藤は、ただ社交的なだけなのかもしれない。

 でもオレは、彼氏がいるのに平気で異性と連絡先を交換する女が、あまり好きではない。

 「ごめんね。 オレと佐藤さん、価値観違うみたい」

 そう言って何も買わずにコンビニを出た。




 嫌な予感がする。

 オレと木内の元カレの価値観が一緒だったとしたら、アイツは木内の元に戻ってくるかもしれない。

 木内との居心地の良い空間が、壊されてしまうかもしれない。
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