【完】『いつか、きっと』
数日、過ぎた。

機材を積んだ黄色のリトルカブで、翔一郎が西陣へ戻ってくると、

「エマただいまー」

「あ、翔くんお帰りー」

そこにはエマの笑顔があった。

機材を下ろすと翔一郎は、データベース化の作業に取り掛かってゆく。

ガバチョの縫いぐるみに旅をさせるシリーズの写真集が売れてからの翔一郎は、文字通り売れっ子の写真家としてスケジュールが詰まり始めていた。

むろん。

和田山にもガバチョは帯同させ、城の石垣に腰かけて但馬の山並みを眺める姿を撮ってある。

その時。

電話が鳴った。

「はい、饗庭です」

エマが出た。

「…もしもし、エマちゃん?」

「もしかして愛?」

後ろで子供の声がする。

「うん」

「ひさしぶりー」

かれこれ京都を離れてから二年近い。

「ところでセンセは元気?」

「今日撮影から帰ってきたとこだよ」

電話は翔一郎に変わった。

「愛ちゃんか…ひさしぶりやなぁ」

「センセもお元気そうで、なによりです」

「まあな」

実は、と愛は言う。

「今度、京都に移ろうかと思いまして」

「…ほへっ?」

翔一郎は思わず奇妙な返答をした。

「会津なんとちゃうん?」

「今は東京なんだけど、何だか合わなくて」

娘の薫子が生まれて以降、祖母の暮らす会津へ移って子育てをしていたはずではないか。

「それが」

祖母が亡くなって東京まで出るには出たものの、

──福島から来た。

というだけで、東京では時に迫害にも近いことを受ける場合すらある…というのである。

「それなら、エマちゃんやセンセがいる京都の方が、暮らしやすいかなって」

恐らく愛が悩んだ末に出した結論なのであろう。

「…さよか。ほな」

不動産だけは見とかなあかんな、と翔一郎は淡々とした声調子で言った。


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