彼女の世界が変わらぬ理由
そういえば、十夜が小学校に上がる前に、一度だけ冬に咲く桜を見たことがあった。
たった一日だけだったけれど。
建物の一階部分がまるまる雪に埋まった真冬。
その中で春のように暖かな日が続いたところ、小学校の桜が咲いたと騒ぎになった。
母に連れられて十夜も見に行った。
すごかった。
いまでもよく覚えている。
晴れ渡った空の下、風花が舞う中、蕾を開いた桜。
満開ではなく、五分咲きくらいであったけれど。
冬と春がいっぺんに来たような、不思議で神秘的な景色だった。
「桜が春になったと勘ちがいしちゃったのよ」
母がそう言っていた。
そのことを思い出し、また暖かい日が続けば、早く桜が咲くかもしれないと十夜は思った。
「急ぐことないのかもしれないけどさ。冬でも見れるかもよ、桜」
見れるといいな。
そう言いながら、十夜は少女の小さな頭を撫でた。