Bitter Sweet
腹ごしらえがすんで、一息つくと、

「さて。そんじゃ、そろそろ帰るわ。午後、用事あるんだった。」
高梨は思い出したように、席を立つ。

「うん、じゃあ。また会社で。」
私が返事をすると、
着てきてたパーカーを羽織り、持ち物の確認をして、玄関へ向かった。

「そうだ、ひかりさん。」
クルッと私に向き直り言う。
「先に言っとくけど、オレのこと避けないでね。やりそう。」
ジトッと私の心を見透かすかのように視線を投げてくる。

「……うん。」
「何、その間。やっぱ考えてたでしょ。バレバレ。」
行動を先読みされて、気まずくて少し下を向く。

はぁ、とため息が聴こえてくる。

「なんでひかりさんがそんなに気まずそうにすんの。手ェ出したの、オレでしょ?」
「…そう、だけど。」
高梨は頭をポリポリ掻きながら、困り顔。
「とにかくいつも通りにしてよ。飲み屋にも来いよな。」

…なんか、生意気さに拍車かかった物言いなんですけど。

でも、私に気を遣わせないようにしてんのかも。
そう思って、
「分かった。犬に噛まれたとでも思って忘れてみる。」
と返す。

高梨はハハッと笑って、
「ひっでー。でも、さ…。」
ふいに私の目の前に顔を近付けて、私をまっすぐ見る。

「忘れられるかな?」

挑戦的な瞳でニヤッとして、じゃあね、と言ってドアを開けて出て行った。




な、な、…何なのよ?

顔がまた熱くなるのを感じる。

なんで最後に揺さぶりかけてくんの?

気にするな、って言っといて。

忘れるのは許さない、そう告げられたかのような視線だった。





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